遺産分割の話し合いが止まってしまったとき、多くの人が思い浮かべるのは「弁護士に頼むしかない」という選択肢です。でも、その前にもう一つ道があります。家庭裁判所の調停です。これは争いを大きくするための手続きではなく、話し合いを続けるための仕組みです。まずは落ち着いて、制度の中身を見てみましょう。


兄弟で話がまとまらなくて、このままだと弁護士さんにお願いするしかないのかなと思っています。費用もかかりますよね…。
誤解その1|「揉めたら弁護士」しか道がないわけではない
遺産分割の話し合いがまとまらないとき、必ずしも弁護士に依頼しなければならないわけではありません。家庭裁判所には「遺産分割調停」という手続きがあります。
裁判所のウェブサイト(裁判所「遺産分割調停」)によると、この調停は相続人のうちの1人もしくは何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料を提出してもらい、解決案の提示や助言を行いながら、合意を目指して話し合いが進められます。
申立てに必要な費用は、裁判所「遺産分割調停」によると、被相続人1人につき収入印紙1,200円分です。これに加えて連絡用の郵便切手が必要ですが、郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先の裁判所で確認する必要があります。


誤解その2|「遺産分割調停」と「遺産に関する紛争調整調停」は同じではない
もう一つ見落とされがちなのが、調停には入口が二つあるという点です。遺産分割そのものについて話し合いがつかない場合は「遺産分割調停」ですが、遺産の有無や範囲、権利関係そのものに争いがある場合は「遺産に関する紛争調整調停」という別の手続きがあります。
裁判所のウェブサイト(裁判所「遺産に関する紛争調整調停」)には、相続人の1人の名義になっている不動産が被相続人の相続財産であるかどうかについて争いがある場合などが例として挙げられています。
相続財産の有無、範囲、権利関係等に争いがあり、当事者間での話し合いがまとまらないときや話し合いができないときに利用できる手続きです。
この手続きの申立てに必要な費用も、収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です(裁判所「遺産に関する紛争調整調停」)。ただし、紛争の内容が相続人全員に及ぶ場合など、相続人全員を手続きに参加させる必要があるときは、遺産分割事件として申し立てることが必要な場合があると案内されています。
なぜ入口が分かれているのか|「分ける話」と「そもそも何があるかの話」の違い
この二つの手続きが分かれている理由は、争いの性質が違うからです。遺産分割調停は「誰が何をどれだけ受け取るか」という分け方についての話し合いです。一方、遺産に関する紛争調整調停は、その前提となる「何が遺産なのか」「誰のものなのか」という部分がそもそも定まっていないときに使う手続きです。
申立先も異なります。遺産分割調停は相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です(裁判所「遺産分割調停」)。遺産に関する紛争調整調停は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です(裁判所「遺産に関する紛争調整調停」)。
図:二つの調停の違い
| 項目 | 遺産分割調停 | 遺産に関する紛争調整調停 |
|---|---|---|
| 何を話し合うか | 遺産の分け方 | 遺産の有無・範囲・権利関係 |
| 申立先 | 相手方のうち一人の住所地の家裁、または合意で定める家裁 | 相手方の住所地の家裁、または合意で定める家裁 |
| 費用 | 収入印紙1,200円分(被相続人1人につき) | 収入印紙1,200円分 |



戸籍の準備は想像以上に時間がかかる
調停の申立てには収入印紙1,200円分という金額の印象が強いのですが、実際に時間がかかるのは戸籍の収集です。裁判所「遺産分割調停」の案内では、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍や、相続人全員の戸籍謄本などが標準的な添付書類として挙げられています。申立前に入手できない戸籍があっても、申立後に追加提出することでも差し支えないとされていますので、揃いきらないからと足踏みする必要はありません。
話し合いが止まったときに、読者ができる具体策
まず確認したいのは、今の争いが「分け方」の争いなのか、「そもそも何が遺産か」の争いなのかという点です。ここを見極めることで、申し立てる調停の種類が変わります。
次に、申立先の家庭裁判所を確認します。遺産分割調停であれば相手方のうちの一人の住所地、遺産に関する紛争調整調停であれば相手方の住所地が基本です。当事者が合意すれば、別の家庭裁判所を定めることもできます(裁判所「遺産分割調停」「遺産に関する紛争調整調停」)。
必要な書類は裁判所のウェブサイトに申立書の書式と記載例が掲載されています。東京家庭裁判所のように、個別の案内資料を用意している裁判所もあります(東京家庭裁判所「遺産分割調停」)。申立先の裁判所で、郵便料や個別の案内の有無を確認すると、手続きが進めやすくなります。
- 争いの中身が「分け方」か「遺産の有無・範囲」かを整理する
- 申立先の家庭裁判所を確認する(相手方の住所地、または合意で定める家裁)
- 戸籍など必要書類を、揃う範囲から準備する
- 郵便料など個別の案内がある裁判所かどうかを確認する
よくある質問


弁護士さんにお願いする前に、まず家庭裁判所に相談してみようと思います。入口が二つあることも、知らなかったので助かりました。



まずは申立先の家庭裁判所に確認を
どちらの調停にあたるか迷うときも、申立先の家庭裁判所に聞けば案内してもらえます。費用も書類も、裁判所のウェブサイトに掲載されている書式をそのまま使えますので、一度目を通してみてください。
まとめ|揉めたときの最初の一歩は、弁護士ではなく家庭裁判所でもよい
話し合いがまとまらないとき、最初に思い浮かぶのが弁護士への依頼だとしても、その前に家庭裁判所の調停という選択肢があります。申立てにかかる費用は収入印紙1,200円分で、争いの中身によって遺産分割調停と遺産に関する紛争調整調停のどちらを選ぶかが変わります。
まずは自分たちの争いがどちらにあたるのかを整理し、申立先の家庭裁判所に確認することから始められます。
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