身内を亡くしたばかりのとき、あるいは自分の終活を考え始めたとき、「遺言書があれば全部大丈夫」と思っていませんか。実はそれ、半分だけ正しい話です。
遺言書と死後事務委任契約は、扱っているものがそもそも違います。この記事では、その違いを分けて整理します。これは不幸な話ではなく、備えの話です。



公正証書遺言をちゃんと作ってあるので、もう安心だと思っていました。でも、葬儀の手配とか、部屋の片付けとか、そういうことまで遺言書に書いてあれば動いてもらえるんですよね?
誤解その1|遺言書があれば、葬儀も片付けも進むわけではない
遺言書は、財産を誰にどう分けるかを定める書類です。相続が始まったあと、効力を持ちます。
一方で、葬儀の手配、納骨、家財の処分、公共料金の精算といった手続きは、財産の分配とは別の話です。静岡市のエンディングプラン・サポート事業の案内では、これらをまとめて「死後事務」と呼び、葬儀や納骨のほか、家財処分、施設や入院費用の精算、電気やガス等公共料金の手続きを含むものとして説明しています(出典:静岡市「エンディングプラン・サポート」)。
これらの手続きを誰かに任せたい場合、遺言書とは別に「死後事務委任契約」を結ぶ必要があります。


誤解その2|死後事務委任契約は、身寄りのある人には関係ない話ではない
死後事務委任契約は、「頼れる身寄りがない人」のための制度だと思われがちです。実際、神戸市・静岡市・泉大津市のいずれの事業も、対象者の要件に「頼れる身寄りがない」ことを含めています。
ただし、これは自治体が運営する支援事業の対象要件です。死後事務委任契約そのものは、身寄りの有無にかかわらず、誰でも事業者などと個別に結ぶことができる契約です。
家族がいても、遠方に住んでいて手続きをすぐには進められない場合や、家族に負担をかけたくないと考える場合に、この契約を検討する人もいます。誰が対象になるかは、契約の相手先や自治体の制度によって異なります。詳しくは、お住まいの自治体か、契約を検討している事業者に確認してください。
なぜ分かれているのか|遺言書と死後事務委任契約が扱う範囲の違い
遺言書は、法律上「財産の処分」に関する意思表示として扱われる書類です。相続開始後、遺言執行者などが財産の分配を進めます。
これに対して、葬儀の手配や納骨、家財処分などの「事務」は、財産の分配とは別の実務です。神戸市の事業では、これを「生前契約(死後事務委任契約)」として、葬祭事業者との間で個別に結ぶ仕組みが説明されています(出典:神戸市「エンディングプラン・サポート事業」)。
つまり、財産を「誰にどう分けるか」を決めるのが遺言書、亡くなった後の「実際の手続きを誰が進めるか」を決めるのが死後事務委任契約です。役割が違うため、片方だけでは足りない場面が出てきます。
図:遺言書と死後事務委任契約が扱う範囲の違い
| 項目 | 遺言書 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| 扱う対象 | 財産の分配 | 葬儀・納骨・家財処分・公共料金の精算など |
| 効力が生じる時期 | 相続開始後 | 契約に基づき、亡くなった時点から |
| 誰と結ぶか | 遺言執行者などを指定 | 葬祭事業者や終活支援事業者など(契約相手は自治体の事業によって異なります) |



見落とされやすいのは「預託金」の扱い
死後事務委任契約を結ぶとき、費用をあらかじめ事業者に預けておく「預託金」という仕組みが出てきます。泉大津市の事業では、葬儀等費用・納骨等費用・事務管理費を合わせて前納する金額が案内されています(出典:泉大津市「エンディングサポート事業」)。この預託金がどう保管され、誰が確認するのかは、契約する事業者や自治体の仕組みによって異なります。契約前に、必ず確認してほしいところです。
今からできること|遺言書と死後事務委任契約を分けて準備する
まず、自分の財産をどう分けたいかを整理し、必要であれば遺言書を作成します。これは相続に関する希望を形にする作業です。
次に、葬儀や納骨、家財処分など、亡くなった後にすぐ発生する手続きを誰に任せるかを考えます。頼れる身寄りがない場合は、お住まいの自治体に、死後事務委任契約を支援する事業があるかを確認するとよいでしょう。
神戸市・静岡市・泉大津市の事業では、いずれも相談を受け付けた上で、対象要件の確認、事業者の情報提供、契約への立ち会い、履行確認までを自治体が支援する流れになっています。ただし対象者の要件や費用の扱いは自治体ごとに異なります。お住まいの自治体の窓口に、まず相談することから始めてください。
図:契約前に確かめておきたいこと
- 誰に何を任せたいか(葬儀・納骨・家財処分・公共料金の精算など)を書き出したか
- 遺言書と死後事務委任契約、両方が必要かどうかを整理したか
- お住まいの自治体に、死後事務委任契約を支援する事業があるか確認したか
- 預託金がある場合、その保管や確認の仕組みを聞いたか
- 対象者の要件(年齢・居住地・所得など)を自治体の窓口で確かめたか
よくある質問



遺言書と死後事務委任契約、両方いるということはわかりました。でも、両方を一度に用意するのは大変そうです。どちらから手をつければいいのでしょうか。



順番は決まっていません
財産の分け方に迷いがあるなら遺言書から、亡くなった後の手続きに不安があるなら自治体の相談窓口から、どちらから始めても構いません。まずはご自身の状況を、お住まいの自治体か専門家に相談してみてください。


そうですね、まずは自分の状況を整理して、窓口に相談してみます。少し安心しました。
まとめ|遺言書と死後事務委任契約は、別の書類として揃える
遺言書は財産の分配、死後事務委任契約は亡くなった後の手続きを扱います。この二つは役割が違うため、片方だけでは足りない場面があります。
頼れる身寄りがない場合は、お住まいの自治体に、死後事務委任契約を支援する事業があるかを確認してください。自治体によって対象要件や費用の扱いは異なります。
まずは自分が何を任せたいのかを整理することから始めてみてください。
参考・出典
- 神戸市「エンディングプラン・サポート事業(生前の葬儀・納骨契約の支援)」https://www.city.kobe.lg.jp/a60186/endingplansupport.html
- 静岡市「エンディングプラン・サポート」https://www.city.shizuoka.lg.jp/s7259/s013073.html
- 泉大津市「エンディングサポート事業」https://www.city.izumiotsu.lg.jp/kakuka/fukushi/hukusiseisaku/tantougyoumu/14027.html

