身内の入居がすぐに終わってしまった。あるいは、これから入る施設を決めなければならない。そんなとき「一時金はもう戻らない」と思い込んでいる方が少なくありません。でも、それは条件によって違います。まずは制度を確認してみましょう。



父が有料老人ホームに入居して2か月で亡くなりました。一時金は数百万円払いましたが、施設から「入居時点で償却が始まっているので戻りません」と言われました。本当にそうなのでしょうか。
誤解その1|「入った時点から償却される」は正しくない
有料老人ホームの入居一時金は、入居した瞬間から一律に償却が始まるものだと説明されることがあります。しかし、老人福祉法第29条には、それとは異なる仕組みが定められています。
前払金を受領する有料老人ホームには「短期契約特例」の義務があります。契約から3か月以内に契約が解除された場合、または入居者が死亡して契約が終了した場合には、前払金から家賃やサービス提供費用等の実費相当額を差し引いた金額を返還しなければならない、というものです。
東京都消費生活総合センターに寄せられた相談事例(東京くらしWEB、2014年3月28日更新)でも、家賃相当額を前払金として支払う方式では、契約日から3か月以内の契約解除は死亡退去も含め、原則として全額が返金されると法律に規定されている、と説明されています。
実際に利用した期間の利用料や、場合によっては原状回復費用が差し引かれることはありますが、「一時金は全額戻らない」という前提そのものが誤りだということです。


誤解その2|「権利金」「協力金」という名目なら別扱いになる
もうひとつ、名目を変えれば法律の対象から外れると考えられがちな点があります。岐阜県公式ホームページ(高齢福祉課、2026年9月16日更新)の記載によれば、いわゆる「一時金」は、家賃等の前払金として算定基礎を明確にしているものであれば受領できるとされています。
逆に言えば、算定基礎が示されない権利金や協力金といった名目での受領は、この枠組みの外に置かれます。前払金として扱われるかどうかは、名目ではなく、算定の根拠が書面で示されているかどうかで判断される、という点は見落とされやすいところです。
なぜ3か月以内なら戻るのか|前払金の位置づけから見る
この仕組みの背景には、前払金がそもそも何のために受け取られているか、という位置づけがあります。前払金は、終身にわたって受領すべき家賃や施設利用料、介護・食事の提供その他の日常生活上必要な便宜の対価を、あらかじめ一括で受け取るものです。
つまり、入居者がまだ使っていない将来分のサービスの対価まで、先に払い込んでいる状態です。入居してすぐに契約が終了した場合、まだ提供されていないサービスの分まで施設側が保持し続けるのは筋が通りません。
そのため、老人福祉法施行規則第20条の10に基づく短期契約特例で、実費相当額を除いた分の返還義務が課されています。
あわせて、終身分の前払金を一括で受領する施設には、返還債務を負う場合に備えた保全措置の義務もあります。施設が経営破綻したときに、前払金が戻らず入居者が居住の場も返還金も失う、という事態を避けるための仕組みです。
岐阜県のページでは、この保全措置の内容や返還金の内容が、設置届の添付書類としても求められていることが示されています。



見落とされやすいのは「実費相当額」の中身です
3か月以内なら全額戻ると考えてしまう方もいますが、正確には「実費相当額を差し引いた金額」が返還される、という条文になっています。実際に入居していた期間の家賃や利用料、原状回復にかかる費用などは差し引かれる場合があります。契約書と重要事項説明書に、その算定根拠がどう書かれているかを、落ち着いてから確認してみてください。
今できること|契約書と重要事項説明書のどこを見るか
まず確認したいのは、支払ったお金が「前払金」として算定基礎を明示されているかどうかです。契約書や重要事項説明書に、前払金の算定根拠と、短期契約特例に基づく返還ルールが記載されているはずです。
次に、保全措置の内容も確認しましょう。終身分の前払金を一括で受け取る施設には保全措置の義務があり、その内容は書面で明示されることになっています。
「もう戻らない」と説明された場合でも、まずは条文と契約書の記載を照らし合わせることが第一歩です。判断がつかないときは、施設の所在地を管轄する都道府県や市町村の窓口、または消費生活センターに相談する方法があります。取扱いは自治体によって異なりますので、まずは確認先を探すところから始めてください。
図:入居一時金の返還を考えるときの内訳
| 受け取った期間 | 契約から3か月以内の契約解除・死亡による終了 |
| 差し引かれるもの | 家賃、サービス提供費用等の実費相当額 |
| 返還されるべき額 | 前払金 − 実費相当額 |
| 確認すべき書面 | 契約書・重要事項説明書の算定根拠、保全措置の内容 |
よくある質問



制度があるのは分かりましたが、施設が応じてくれないときはどうすればいいのでしょうか。



まずは記録を残すことから
契約書、重要事項説明書、施設からの説明のやり取りを手元に残しておくことが第一歩です。それを持って、施設を管轄する自治体の窓口や消費生活センターに相談すれば、制度に基づいた整理をしてもらえます。ひとりで抱え込まず、確認先を持っておくと安心です。


「償却済み」で終わらせずに、まず契約書を確認してみます。少し落ち着いて対応できそうです。
まとめ|「償却済み」の一言で終わらせない
入居一時金は、入居した瞬間から一律に償却されるものではありません。契約から3か月以内の契約解除、または入居者の死亡による契約終了であれば、実費相当額を差し引いた金額を返還する義務が法律に定められています。
また、算定基礎が明確でない権利金や協力金といった名目の受領は認められていません。終身分の前払金には保全措置の義務もあります。「もう戻らない」と言われたときこそ、契約書と重要事項説明書に立ち返り、確認先を探すことが大切です。
参考・出典
- 岐阜県公式ホームページ「有料老人ホームの設置運営」(高齢福祉課、2026年9月16日更新) https://www.pref.gifu.lg.jp/page/5890.html
- 東京くらしWEB「有料老人ホームに1100万円の一時金を支払って契約したが、すぐ解約した。返金されるか。」(東京都消費生活総合センター、2014年3月28日更新) https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/faq/main/186.html

