

葬儀社の広告でよく見かける「家族葬 〇〇万円〜」という表示。この「〜」から始まる金額が、実際に支払う総額とかけ離れていたとして、2026年9月、消費者庁が葬儀サービスのテレビ広告に対して措置命令を出しました。
広告に大きく示された最低価格はおよそ10万円。ところが実際にその式場で葬儀を行った場合、必要となる最低額はその約3倍にあたるおよそ31万円でした。景品表示法が禁じる「有利誤認」にあたる、という判断です。


広告では十数万円と書いてあったのに、見積書を見たら三十万円を超えていました。だまされたのでしょうか。それとも、私が読み違えていたのでしょうか。
この記事では、なぜ「〇〇万円〜」という表示と実際の総額がずれるのか、その仕組みを分解します。そして、見積書のどこを見れば、その差に自分で気づけるのかをお伝えします。
葬儀の費用の内訳、相場の見方、戻ってくるお金は葬儀費用のすべてにまとめています。あわせてご覧ください。
そもそも「〇〇万円〜」とは何の金額なのか
「〜」がつく金額は、そのプランを最も安い条件で利用したときの、プラン料金だけの金額です。ここを取り違えると、あとの計算がすべてずれていきます。
プラン料金とは、葬儀社が自社で用意するもの、つまり棺、骨壺、寝台車、ドライアイス、スタッフの人件費などをひとまとめにした金額です。ここには、葬儀社が自分で値段を決められないものが入っていません。
- 棺・骨壺
- 寝台車・霊柩車
- ドライアイスなどの保全
- 安置最短の日数で計算
- スタッフの人件費
- 火葬料斎場を運営する自治体へ
- 式場の使用料その施設へ
- 宗教者へのお礼お寺や教会へ直接
- 供花・お料理・返礼品ご会葬の人数で変わる
- 延びた分の安置費用火葬の予約状況で変わる
葬儀社が値段を決められないものとは、火葬料と式場の使用料です。火葬料は自治体や運営組合が条例で定めており、式場の使用料もその施設の規定で決まります。金額は地域によって大きく違い、同じ市内でも住民か住民以外かで数万円の差が出ます。
つまり、広告に出せる「最低価格」は、地域差のある費用をすべて外したあとの数字にならざるをえない。これが構造上の出発点です。
それでも表示と総額が3倍ひらく理由
構造上、多少のずれが出ること自体は避けられません。問題は、そのずれが数万円ではなく、2倍、3倍にまで広がってしまうときです。今回の措置命令の事例から、ずれを大きくする要因が3つ読み取れます。
要因1|最低価格は「条件がすべてそろった人」の金額
最低価格が成立するには、たいてい複数の条件を同時に満たす必要があります。たとえば、その式場の所在地に住民票があること、安置日数が最短で済むこと、参列者が一定人数以下であること、といった具合です。
条件はひとつずつなら現実的に見えます。しかしすべてを同時に満たす方は、実際にはごく一部です。ひとつ外れるごとに金額が積み上がり、気がつけば表示価格の倍を超えている、ということが起こります。
要因2|安置日数は自分では選べない
見落とされやすいのが安置です。火葬場の予約が取れなければ、その日数だけご遺体をお預かりすることになります。安置室の使用料もドライアイスも、1日単位で加算されます。
そして火葬場が混んでいるかどうかは、ご遺族には選べません。冬場や年末年始は数日待つことも珍しくなく、この待ち時間がそのまま費用になります。最低価格は、この待ち時間がゼロだった場合の金額です。
要因3|打消し表示は、小さく短い
広告には「別途費用が必要です」といった注記が添えられていることがほとんどです。これを打消し表示といいます。
ただし、大きな文字で示された金額と、画面のすみに数秒だけ出る小さな注記とでは、受け取る側に残る印象がまったく違います。消費者庁が問題にしているのは、まさにこの印象の差です。注記さえ入れておけばよい、という話ではないという判断が示されました。
これは一社だけの問題なのか
ここは正直にお伝えしておきたいところです。「〜から」という最低価格の見せ方は、葬儀業界に限った手法ではありません。住宅、自動車、通信、旅行など、条件によって価格が変わる商品では、どの業界にも広く使われています。
だからといって、表示のずれが許されるわけではありません。ただ、「この会社が特別に悪質だった」と考えて終わりにすると、次に同じ思いをするということは申し上げておきたいのです。表示価格と総額がずれる構造そのものは、広告を出しているどの葬儀社にも共通しています。
しかも葬儀は、ほかの買い物と決定的に違う点があります。比較する時間がないことです。ご逝去から数時間で葬儀社を決めなければならない状況で、複数社の見積もりを並べて検討できる方はほとんどいません。だからこそ、広告の金額がそのまま信じられてしまいます。
消費者の側にも読み方の備えが要る、というのが今回の件から得られる、いちばん実用的な結論だと考えています。
見積書で必ず確認したい5つの項目
広告の金額を見抜く方法はひとつしかありません。見積書を出してもらい、次の5点を自分で確かめることです。この5点がすべて明記されていれば、総額は動きません。
1|火葬料が入っているか、いくらか
公営の火葬場であれば、住民は無料から数千円、住民以外は数万円という設定が一般的です。民間の火葬場ではこれより高くなります。「火葬料」という行が見積書にあるかを最初に確認してください。行がなければ、それは別払いです。
2|式場の使用料が入っているか、いくらか
式場を使う場合に必要です。公営斎場の式場は民間より抑えられていることが多く、ここを選ぶだけで総額が変わります。どの式場を前提とした金額なのかまで確認してください。
3|安置は何日分で計算されているか
見積書には「安置1日分」のように日数が書かれています。火葬場の予約が取れなかった場合、1日あたりいくら増えるのかを、この時点で聞いておいてください。あとから増える費用のうち、最も読みにくいのがここです。
4|税込か税別か
広告の金額が税別で、見積書が税込ということがあります。総額が30万円なら、この差だけで3万円です。広告と見積書で表記をそろえて比べてください。
5|これ以上増える項目はあるか
最後に、この一言を必ず聞いてください。「この見積書のほかに、当日かかるものはありますか」
返礼品やお料理は参列人数で変わります。宗教者へのお礼は葬儀社の売上ではないため、見積書に入らないことがあります。入っていないものを聞き出すのが、この質問の目的です。
よくある質問
広告に出ていた金額と、実際に必要だった金額
最低価格
だった金額
2026年9月18日に消費者庁が公表した措置命令の内容にもとづいています。棒の長さは金額に比例しています。
まとめ|広告の金額ではなく、見積書の総額で決める
「〇〇万円〜」は、そのプランを最も安い条件で使ったときの、プラン料金だけの金額です。火葬料、式場使用料、延びた分の安置費用は、ここに入っていません。
今回の措置命令は、この差が3倍にまで広がっていた事例に対して出されました。ただし、表示価格と総額がずれる構造そのものは、広告を出しているどの葬儀社にも共通しています。
だからこそ、確かめる先は広告ではなく見積書です。火葬料、式場使用料、安置日数、税の表記、そして「ほかにかかるものはありますか」の一言。この5つを押さえれば、金額があとから動くことはほとんどなくなります。
平均費用という数字の読み方については「「葬儀費用の平均は◯◯万円」を信じてはいけない|統計が示していない3つのこと」でも詳しく触れています。
参考・出典
- 消費者庁「景品表示法に基づく措置命令について」2026年9月18日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/047522
- 消費者庁「景品表示法関係ガイドライン等」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/
- 国民生活センター「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル-「家族葬だから安い」と思っていませんか?-」2026年6月3日公表 https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260603_2.html

