「後見人をつければ、もう何も心配しなくていい」——そう思って手続きを進めようとしていませんか。実はこの制度、思っているより「できないこと」が多くあります。
これは制度の欠陥ではありません。本人の意思をできるだけ尊重しようとする、制度の設計そのものです。まずは正しく知ることから始めましょう。


父に後見人をつければ、お金のことも契約のことも、全部代わりにやってもらえると思っていました。違うのでしょうか。
誤解その1|「日用品の買い物まで取り消せる」は間違い
成年後見制度は、判断能力が十分でない方の権利を守るための仕組みです。裁判所の説明によれば、判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の三つに分かれ、それぞれ本人を支える人(補助人・保佐人・成年後見人)が選ばれます。
ここで注意したいのは、後見人がついたからといって、本人のすべての行為を後から取り消せるわけではないという点です。裁判所の説明では、本人の権利・利益を擁護すべき立場にある後見人等の役割が示されていますが、日用品の購入のように本人の日常生活に関わる行為までは対象になりません。
「後見人がいれば安心」という言葉だけが先に広がり、実際の範囲まで確認しないまま申立てをしてしまう方が少なくありません。まずは制度がどこまでを対象にしているのか、落ち着いて確認することが大切です。
誤解その2|任意後見には「取消権」がない
裁判所の説明では、任意後見は「本人の判断能力が不十分になったときに、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約にしたがって任意後見人が本人を援助する制度」とされています。家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、その契約の効力が生じます。
ここで押さえておきたいのは、任意後見が「本人があらかじめ選んだ人と、あらかじめ決めた内容」で援助を行う制度だという点です。法定後見(後見・保佐・補助)とは仕組みが異なり、本人の意思を尊重した契約に基づく援助という性格を持っています。
「任意後見も法定後見も同じように、本人の代わりに何でもできる」と考えていると、実際の場面で想定と違う対応になることがあります。契約前に、自分がどこまでを託したいのかを整理しておくことが必要です。


候補者を立てても、選ばれるとは限らない構造
申立ての際、家族が「候補者」として自分の名前を挙げることができます。しかし裁判所は「申立書に候補者として記載された方が必ず選任されるわけではありません」と明言しています。
事案に応じて、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることもありますし、複数の後見人等が選ばれる場合もあります。希望した人が選ばれなかったという理由では、不服申立てはできません。
さらに、本人の財産を適切に保護するため、専門職の後見人等や監督人が選ばれたり、後見制度支援信託・後見制度支援預貯金の利用が検討されることもあります。「家族が申立てをすれば、家族が後見人になれる」という前提自体が、必ずしも成り立たないのです。
また、後見人等・後見等監督人への報酬は、家庭裁判所が金額を決定し、本人の財産から支払われます。この点も、申立てを検討する段階で知っておきたい構造です。



申立ての前に、家族が知っておきたいこと
ご家族から「候補者に自分の名前を書いたのに、専門職が選ばれた」というご相談を受けることがあります。裁判所の説明どおり、これは不服申立てができる話ではありません。申立てをする段階で、こうした可能性があることを家族間で共有しておくと、後で戸惑いが少なくなります。
申立て前にできること|制度の範囲を確認する三つの視点
後見制度の利用を検討するときは、まず「何を託したいのか」を整理することが役立ちます。日用品の購入のような日常の行為まで対象にするのか、財産管理や契約行為に絞るのかによって、必要な備え方が変わります。
本人の判断能力がまだ十分あるうちに、任意後見契約という形で、あらかじめ援助してほしい内容や人を決めておく方法もあります。これは法定後見とは異なる仕組みですので、両者の違いを理解したうえで選ぶことが大切です。
また、いったん申立てをすると、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることはできません。手続きにはおおむね1か月から2か月程度かかるとされており、鑑定を行う場合はさらに時間が必要です。
申立て後も、本人の能力が回復するか、本人が亡くなるまで手続きが続き、家族の意思や本人の希望でやめることはできない、とされています。
終活の一環として、こうした制度の範囲や手続きの流れを早めに確認しておくことは、後で後悔しないための一つの備えになります。


| 区分 | 対象となる方 | 本人の権利を守る人 |
|---|---|---|
| 補助 | 判断能力が不十分な方 | 補助人(監督人を選任することあり) |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 保佐人 |
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 | 成年後見人 |
| 任意後見 | あらかじめ契約を結んだ方 | 任意後見人(監督人選任時に効力発生) |
よくある質問


できることとできないことが、少しずつわかってきました。父にどこまで託したいのか、家族で話し合ってみます。



まずは範囲を知ることから
後見制度は「全部お任せできる魔法の仕組み」ではありません。ただ、範囲を知ったうえで使えば、本人にとっても家族にとっても心強い制度です。焦らず、まずは制度の輪郭をつかむところから始めてみてください。
まとめ|「何でもできる」ではなく「どこまでできるか」を知る
成年後見制度は、判断能力が十分でない方を法律的に支える大切な仕組みです。ただし、日用品の購入まで取り消せるわけではなく、任意後見には取消権がなく、申立てで挙げた候補者が必ず選ばれるとも限りません。
これらは制度の欠点ではなく、本人の意思を尊重するための設計です。申立てを検討する前に、こうした範囲を家族で共有しておくことが、後々の戸惑いを減らす一歩になります。
関連する終活の進め方については、以下の記事も参考にしてください。
参考・出典
- 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」 https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp1/index.html

